残価設定ローンという罠

若者の車離れということもありますが、日本の所得がなかなか上がらないため、車という大きな買い物をすることやローンを組んでマイカーを持つことに抵抗を感じる人が増えてきました。そのため、残価設定ローンが登場しました。残価設定ローン(残クレ)とは、あらかじめ将来の下取り価格を設定してその価格を引いた残価に対してローンを組んで支払う方法です。残価設定ローンは、新車購入時に3年または5年後などに車両を返却するか買い取りをする選択ができることが特徴です。マイカーローンと比べて月々の支払額が少なく、人気のプランになっています。特に人気車種ほど、3年後または5年後の中古車市場での価値が高いことが見込まれるため、買い取り価格が高くなる(価値が残る)ため、3年または5年の使用で減少する価値が少なくなります。そのため、月々の支払額を逓減することができます。ただし、3年後または5年後に自分のものにしたければ、残価分を一括で支払わなければなりません。通常、車両価格の40~60%程度になります。

乗用車車両価格の40~60%であれば、100万円以上の支払いになるため、ほとんどの人は車両返却を選択します。そして3年後または5年後に同じメーカーの新車に乗り換えます。つまり、延々と車を乗り換えるスパイラルに突入するわけです。自動車メーカーにとっては、新車も短いサイクルで売れて、さらに金利も取れるので一石二鳥のビジネスモデルと言われています。

 

また、残価設定ローンは一定条件をもとに、残価が保障されているため、走行距離が多すぎたり、キズ・へこみなど車両状態が悪いと減額査定になるので、注意が必要です。いずれにしても、目先の金額だけで判断すると、結果的に高くついてしまいます。

自動車リースという選択肢

残価設定ローンと同様に、自動車を一括で買うのではなく、リースという選択肢があります。会計上は複雑ですが、わかりやすく言えば、レンタルのようなイメージです。レンタカーと異なるのは、期間が長いことです。通常は2年から11年程度まで選択できます。年限終了時に買い取りか返却かを選択できます。特徴は、車検費用、保険、税金関係が月々の支払いにコミコミであるため、家計の管理がしやすいということです。結論的には、転勤等の関係で車を使用する期間が2年や3年と限定されている場合は、自動車リースも選択肢になりますが、5年以上使用する場合は、自己所有したほうが良いと考えます。なぜなら、リース会社のビジネスモデルは金融なので、利息で稼いでいるからです。オートローンであれば、自動車本体価格に対してのローンになりますが、リースの場合は、保険、車検、税金に対しても金利がかかってきますので、支払総額が高くなってしまうからです。

法人の場合、自動車リースは銀行の融資枠を使用せずに済むのと、メンテナンスリースにすれば、煩わしい点検も業者にアウトソーシングすることができるので、メリットがあります。一方、個人の場合は、使用期間が限定されているなどのケースを除き、ほとんどメリットはありません。買い取りを選択するまで、車の所有権はリース会社にありますので、契約条件を超えた過走行やキズ・へこみによる車両状態が悪い場合は、追加料金を課される場合があります。

自動車にかかる費用

まず、自動車購入代金が必要ですが、軽自動車やコンパクトカーだと、

諸費用込で200万円~300万円かかります。なお、マイカーローンの金利は1.2%~3%程度なので、低金利ではありますが、住宅ローンの変動金利が0.5%前後と比較すると、高金利になります。ここでは、軽とコンパクトカーの人気車種で比較します。なお、ガソリン代は2021年末時点では、160円を超えていますが、高騰する前の130円を使用しています。

 

車種 軽自動車 普通自動車
N-BOX アクア
(重量890kg、総排気量660cc)想定 (重量1100kg、総排気量1496cc)想定
自動車税(種別割)※1 10,800円/年 30,500円/年
自動車重量税※2 9,900円/3年 36,900円/3年
自賠責保険※3 19,730円/2年 20,010円/2年
車検代※法定点検含む 70,000円 100,000円
消耗品等 30,000円 50,000円
駐車場代※4 200,000円 200,000円
ガソリン代※5 48,150円/年 34,210円/年
任意保険料※6 45,000円/年 75,000円/年
  434,990 548,160

※1

令和元年10月1日以降に初回新規登録をした自家用車

 

※2

令和元年10月1日以降の新車新規登録等時における自動車重量税

(2021年1月時点/エコカー減税の適用はしていません)

 

※3

2022年(令和3年)1月1日現在(出典:損害保険料率算出機構)

 

※4

東京近郊(23区と隣接している市)を想定

 

※5

軽自動車 年間10,000km、ガソリン1リットル130円、燃費27km/L(JC08基準)で計算

普通自動車 年間10,000km、ガソリン1リットル130円、燃費38km/L(JC08基準)で計算

 

※6

保険料は車種・契約者の年齢・補償内容・特約の有無などにより細かく変化するため、一例として記載

 

上述のように、ランニングコストだけでも、年間40万~50万円必要になります。加えて、300万円で購入した車を7年乗る場合、年換算では、43万円になるので、車両本体とランニングコストを合わせると100万円近くになります。

なお、駐車場代が安い地域だと、もう少し下がりますが、一戸建ての駐車場付だと駐車場代はかかりませんが、車庫分の土地を余分に購入し、先払いしていると考えるとよいでしょう。決してタダではないということです。

車を持たないメリット

車を所有しない利点は何よりもお金を節約できることです。年間80万円として、月々6.6万円節約が可能になります。タクシーやカーシェアを使用したとしても、4~5万円は節約できるのではないでしょうか。その節約分を自己投資、旅行などのレジャー、住宅資金、教育資金、老後資金に回すことができます。もちろん、コロナショックなどで家計が急変した場合も、車を手放すことが、支出削減の主役になります。

車を持たないということは、重量税や自動車税などの税金を払わなくてよくなります。自動車は税金の塊と言われています。ガソリン税自動車取得税など、道路整備のためには仕方ない部分もありますが、多額の税金がかかってくる贅沢品になります。

車を所有しないことは、今まで車を所有していた人にとっては、何だかみすぼらしく感じるかもしれません。しかし、車があることですぐそこのコンビニまで車で行ったりして、歩行する機会を失っていたのかもしれません。健康やダイエットで最も手軽なのは、歩くことです。ぜひ、プラス思考で車のない生活を楽しんでください。

車を運転していると、自分が事故を起こした場合、加害者になる可能性があります。これは、カーシェアリングやレンタカーでも同様ですが、できるだけ自分で運転しないことになり、事故のリスクが減ります。特に高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は後を絶ちません。運転は公共交通やタクシーなどのプロに任せるのが、自分が加害者になる可能性を減らす最もよい方法です。

それでも車を所有したい場合

いままで本書を読んで、自動車を所有しないメリットは理解したが、それでもやっぱり車が欲しいという方もいらっしゃると思います。その場合は、4~5年落ちの中古車で自動ブレーキ(安全装置)、ACC(アダプティブクルーズコントロール)付きの車種を購入することをお勧めします。ガソリン車かハイブリッド車かは年間の走行距離によります。年間5,000キロ以上走行しないと、ハイブリッド車では元は取れないと言われています。また、ガソリン車の場合は、車検チェーンやカー用品店などディーラー以外に車検を任せても良いですが、ハイブリッド車の場合は、ディーラー以外の整備工場では検査装置等が対応できていない場合もありますので、割高なディーラー車検を受ける必要が出てくるので、ランニングコストは高くなります。

 

車の価値は1年で30%程度下がると言われています。もちろん、人気車種の場合は、なかなか値落ちしない場合もありますが、一般的には下表のように、購入から5年くらいまでの価値の下がり方が激しいということです。裏を返せば、4~5年落ちの中古車が狙い目になります。あまり古い年式だと故障のリスクも高まりますし、安全性能も充実していません。いまから車を購入するのであれば、自動ブレーキは必須でしょう。また、ACCは高速道路で前の車との車間距離を自動で制御したり、車線逸脱を防止する機能なので、これが有れば高速道路の運転が非常に楽で、事故のリスクも下がります。コンパクトカーでも2016年、2017年式の車にも装備されているので、購入時に確認しましょう。そして、100万円で購入した車を10年程度乗れば、月々に換算すると8千円程度になるので、新車購入よりもかなりの節約になります。

 

レンタカー、カーシェア、タクシーの使い分け

カーシェアの料金ですが、2021年12月現在では、最大手のタイムズはベーシックカーの場合、月額880円、時間料金220/15分、6時間まで4,290円、12時間まで5,500円です。6時間までなら、燃料費込みです。(6時間を超えると、距離料金が加算されます。)月会費は当月の時間料金に充当されますので、1時間以上利用するのであれば、月会費は実質無料になります。各人で使用頻度が異なると思いますので、詳細は各社のHPでシミュレーションをしてみてください。なお、カーシェアのデメリットは土日などに利用が集中するため、空き車両がない場合があることです。利用地域でのカーステーションの数を確認し、車を手放す前に、一度カーシェアの会員になり、試してみることが必要です。

レンタカーの場合は、燃料費は別ですが、6時間と12時間の価格にそれほど差がないため、12時間でもコンパクトカーだと6,000円以下で利用できます。6時間以上だと、レンタカーに軍配が上がるようです。なお、レンタカーの場合は、系列や店舗にもよりますが、所定の費用を支払えば、出発店舗と返却店舗が同じでなくてもOKなので、旅行などでは使い勝手はよいと思います。

タクシーは駐車場を探さなくてよいことや、返却時間を気にしなくてもよいので、病院などの待ち時間が不明な場合は、カーシェアではなく、タクシーの方が使い勝手がよいでしょう。

未来のモビリティ

脱炭素の流れから、電気自動車の普及が予測されています。そして、従来の自動車メーカーだけでなく、テスラに続きGAFAのようなIT企業も電気自動車の参入を模索しています。自動運転の時代になった場合、もはや車の自己所有という概念がなくなるかもしれません。法改正され、平日に駐車場で眠っている自家用車が勝手にお客さんを拾って、稼いでくれる時代になるかもしれません。その時は、自動車が資産となり得るので、自己所有してもよいと思いますが、2022年現在では、平日に駐車場で眠っている車を所有しつづけるために、各種税金や保険料、車検代、駐車場代を払い続けなければなりません。読者のみなさまが、そのお金を別の用途に使用することにより、より豊かな人生を過ごせることを願っています。